ふとしたきっかけで、昔のことを思い出しました。
パソコンは家に一台、使えるのは安くなるテレホーダイの夜だけ——
そんな1990年代後半のお話です。
サンリオの世界にあった、子どもたちの楽園
当時、NTTデータとサンリオが共同で運営していた「マグネット(magnet.ne.jp)」という、とても可愛らしいコミュニティサイトがありました。
メインのターゲットは小学生や中学生。
サンリオのキャラクターたちがデザインに散りばめられていて、ひらがなが多くて、とにかくほっこりする作りだったのです。
「マグフォーラム」という掲示板やチャット、「マグポスト」というメッセージ機能もあって、今でいうSNSの先駆けのような場所でした。
「マグネタウン」という仮想空間の中に自分の部屋を作ったり、イベントに参加したり——子どもたちはそこで、初めての楽しいネット体験を謳歌していました。
その片隅に生まれた、大人たちの居場所
子ども向けのサイトだったのですが、マグフォーラムに
「パパママが集まるスペース」が作られました。
育児の話、旦那さんの愚痴、子どもたちの成長のこと——。
子どもたちがはしゃいでいるすぐ隣で、ちょっと疲れた大人たちがぽつりぽつりと語り合っていたのです。
その空気がゆるくて居心地がよかったのか、やがて1999年にママたちが集まる独自の集まりが立ち上がりました。なんと世紀をまたいだ活動の始まりです。
楽しい「会社ごっこ」の始まり
私たちは、ちょっとユニークな「会社ごっこ」を始めました。
それぞれが勝手な役職名をつけて、大真面目に(?)役になりきるのです。
子育ての合間にパソコンを開いては、みんなでワイワイと楽しい「業務」に励んでいました。
住所を交換して、小包を送り合った思い出
その仲間の中で、誰かが個人ホームページを立ち上げました。無料のホームページ作成サービスで作られたであろうその小さなサイトが、私たちの新しい「オフィス」であり、拠点になっていったのです。
そこではマグネットの世界観も関係なく、ただ「仲良くなった大人同士」として、季節のイベントを楽しみました。
特に印象深いのは、クリスマスのプレゼント交換です。
「予算は1,000〜2,000円くらいで送りましょう!」とホームページの掲示板で呼びかけ、
お互いに住所を教え合って、心を込めて小包を発送しました。
届いた報告が掲示板に並ぶのが、また何よりも嬉しかったのです。
「包みが可愛すぎて開けるのがもったいない!」なんて書き込みに、
みんなでわいわいコメントを返したり。
今思えば、ネット上で知り合った人に住所を教えるなんて、ずいぶん勇気がいることのように思えます。でも当時は、そんな温かい信頼関係が、不思議と自然に成り立っていました。
時代が変わっても、心に残るもの
あれほど賑やかだったコミュニティも、時間の流れとともに静かになっていきました。
子どもが成長して生活が変わったり、新しいブログサービスやmixi、やがてSNSへと人が移っていったり——
いつの間にか、あの掲示板に集まっていた人たちとの交流は途絶えてしまいました。
当時のスクリーンショットも、メッセージのログも、手作りのホームページも、もうネットのどこにも残っていません。
でも、クリスマスに届いた小包の温もり、掲示板に並んでいたにぎやかなコメント、
顔も知らないのに不思議とあたたかかったあの空気のことは、今でもちゃんと覚えています。
ネットが今よりずっと狭くて、だからこそどこか密で優しかったあの頃。
あの楽しかった「会社」の思い出は、私の大切な記憶のひとつです。

